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「悠久の機甲歩兵」作者:竹氏様

小説
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こちらの記事は私が読んで「面白い」と思ったオススメのWeb小説をご紹介しようというものです!

第二十四回は、竹氏様の「悠久の機甲歩兵」です!

 

作品閲覧はこちらからどうぞ!

悠久の機甲歩兵
 文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界// 無料オンライン小説です

あらすじ(作品より一部引用)

文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。
僕はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶を持って。機甲歩兵マキナを操る技術を持って。
ここに自分が居る以上、ここで生きて死ぬというのが生物だと考えた。
荒廃しても人間は滅びていない。ならば生きよう、今は放浪者として。

(ノベルゲーム風)試し読み

 遮る物のない満天の星の下、乾いた土の地面が凸凹に突き出している荒れ地に、ぼんやりと光る場所があった。

 町から町へ延びる長い街道の、およそ中間付近にポツネンと置かれた酒場。特に珍しいものもない。

 砂岩で作られた小さな建物は年季を帯びていて、屋上は天幕が張られた休憩所となっている。

 ランプが照らし出す店内では、背負子を持った商人と旅人が酒飲み話をしていた。

「なぁここに来る途中で廃墟を見たんだが、ありゃなんだ?」

 旅人は地図を広げ、薄汚れた手で地図の一点を指す。

 その大雑把な地図にこの酒場は記載されていないが、旅慣れているであろう彼は素早くその場所を見つけている。

「何かデカい建物だったらしいぞ。今じゃ見る影もないけどよ」

 商人は商人で、何度か行ったことがあるが、等と勿体ぶりながら話す。

 ロクな娯楽もない場所だからか、適当な話は弾むものだ。

 そんな中、パラりと天井から砂が落ちたのは、誰か――主に客だろう――が入口を開けたからだろう。

 彼らと店主、そして2人の用心棒が入口に注目した。

 ボンヤリと明るい店内に一種の緊張が走る。それは異物、そこに居ることが不自然な者に向けられる視線だ。

 ただし、ここの客が常連かと聞かれればそうではないだろう。つまりは、酒場という場所に不似合いだと、全員が感じていた。

 入ってきた異物は男と女。

 男は中肉中背で丸い顔は不精髭を蓄えていた。威嚇的な棘付きの兜を被り、ボロ布に鉄板を縫い付けたような独特の服を纏っている。

 この世間において、それだけならば悪人面に威嚇的なチンピラという程度でなんということはないが、手に鈍く光る斬馬刀が抜き身で握られていれば話は別だ。

 女は細身で、長細い顔に切れ長の目。茨の鞭でも持っていそうなボンテージ鎧を身に着け、煙草をくゆらせていた。

 悠然と、ただし威圧的に、2人は店内を見渡す。

「こぉんな遅くに悪いねぇ、店主」

 悪いなんて欠片も思っていないだろうに、女は顔に笑みを浮かべながらそう口走った。

 そっと店主がカウンターの裏に隠してある片手剣に手を伸ばす。それと同時に用心棒も腰の剣を引き抜く。

「飯食いに来たって面じゃねぇよな」

「理解が早いじゃないか。賢い男は嫌いじゃないよ?」

「頭の悪い奴に賢いと褒められて喜ぶとでも?今引き返せば追いはしないぞ」

「頭が悪いぃ?誰がさ」

 まるで自分がそうだと言われていないことが確信できているように、女は挑発的な笑みを深める。

「たった2人で強盗に入ろうなんて奴のどこに、頭の良さを期待できるんだ?」

「あぁ~、そうだねぇ悪い悪い……店に入るにはちょっとデカいから待たせてるツレが居るんだけど、そいつも呼んでいいかい?」

 用心棒の1人が狂った野郎だと斬りかかる素振りを見せるが、店主が軽く手を挙げてそれを制する。長年店をやってきた彼の勘が、ここで攻撃すれば取り返しのつかないことが起きる気がしていた。

「店に入れない、だと?」

 店主の疑問に答えるように、女と男の間から顔を覗かせたのは、金属の塊だった。

 見た目は巨大な鎧のようで、それが意思を持ったかのように扉部分の壁を握りつぶす。

 人の3メートルはあろうかという巨躯に、先ほどの旅人がテーブルをひっくり返し、尻餅をつく。酒飲み話に興じていた商人も椅子から転げ落ちて、頭から安酒の残りを浴びていた。

「り、リビングメイルだと!?」

「へぇ?物知りな奴が居たもんだ」

 今まで黙っていた不精髭男が、その名を呼んだ客の首に斬馬刀を突き付ける。

「なぁアンタ、教えてやってくれよ。こいつが何なのかを、ここにいる頭の悪い連中によぉ」

「ひっ……お、俺は、こいつがリビングメイルだって……ひ、ひとりでに動く鎧だって」

 一応腰に剣を下げてはいるが、旅人は荒事が苦手らしく、両手を上げながら知っている知識を叫んだ。

 しかし、リビングメイルという名前を知っていた程度であり、不精髭男はやれやれと肩をすくめる。

 旅慣れている事と荒事に向いている事は繋がらない。

「こりゃ落第だな。勉強しなおすこった放浪者ドリフター

 勢いよく振り下ろされた斬馬刀は旅人の脳天へと突き刺さった。旅人は待って、と言おうとしたのか、やめて、と言おうとしたのかわからない声と共に血を吹き出しながら痙攣し、そのまま床に倒れた。

「ひ、ひぃぃぃ!」

 残された商人が顔を青ざめて壁際まで後ずさる。

「貴様……!」

 用心棒の身体に力が入る。だが、後ろのリビングメイルに見据えられ、悔しそうに歯を鳴らした。

「気が早いのが旦那の悪いとこでねぇ、ごめんよぉ?」

 女はクスクス笑いながら不精髭の背を叩く。とはいえ、不精髭は嬉しそうな表情を浮かべるだけで、それを止めようとはしなかった。

 ぐぅ、と店主は唸る。

 何故こんなコソ泥風情がリビングメイル、否、手なずけられたテイムドメイルなど連れているのか。存在が希少であり、人に従う個体はほとんど居ないというのに。国家軍が所有している少数のテイムドメイルだけで、その国を護りきれると言われるほどの戦力だ。

(生身の人間で勝てる相手じゃない……だが)

 逆に全て破壊して奪い去るつもりなら、わざわざこんな遠回しなことはしないはずだろう。と店主は肩の力を抜く。

「……全員剣を下ろせ。あんたらの要求を聞こう」

「んふふ、賢い男ってやっぱり嫌いじゃないよぉ。今後この辺りはあたしたちの縄張りになるのさ……そこで商売していくって言うなら、わかるよねぇ?」

 店主は小さく毒づいた。

 この店は自分が一から立ち上げた店だ。昨日今日、気まぐれに現れて土地を領有しようと考えた盗賊風情に下るのか。

 こいつらが欲しているのは金と食い物だろうことはわかる。しかし、それを突っぱねる力が自分にないこともよくわかっている。

「いくらだ……!」

「そうねぇ、それじゃあ―――」

 と、女が言いかけた時、背後で凄まじい衝撃音が響き渡った。

 金属同士がぶつかり合ったようなそれは、直ちに地響きに変わる。

「何だ!?」

 不精髭が慌てて店を飛び出した時、そこに居たはずのリビングメイルは街道を外れたあたりで倒れていた。

 破壊されたわけではないらしく、ギリギリと音を立てながら立ち上がろうとする鈍色の鎧が目に入る。

「お、おいお前!鎧が!」

「一体なにやってんだい!?」

 吹き飛ばされた。

 国宝の剣でも傷つかず、攻城弓すら容易に跳ね返すリビングメイルが吹き飛んだのだ。

 この光景に、女は背筋が凍る。店主は女を頭が悪いと評したが、彼女の知識と勘は盗賊として一級品だった。

 それは幸か不幸か、ボンヤリと、だが、確かにそこに居る“何者か”に気づいた。気づいてしまった。

「何者だい!?姿を見せな!」

 焦りを含んだ叫び声に、その“何者か”が反応する。

 重装歩兵よりもなお重い足音。暗闇にはボンヤリと赤い光が浮かぶ。

 そして光に溶け出すように現れたのは、鮮烈な水色をした鎧。

「なぁっ!?なんでこんなとこに野良が……鎧、潰しちまいな!」

 女の声に反応してか、いつの間にか立ち上がった鈍色が拳を振り上げる。

 噂は聞いたことがある。少なくともその女にとって、それは大切な噂だった。

 リビングメイルにもいろいろ種類がある。赤錆びた奴が最も弱くて、あらゆる国家軍の連中は銀色に輝く奴を使うのだとか。それらは強く、野良なんて相手にならない、人をして曰く最強だと。

 鈍色はその銀色のなり損ない。つまりは、銀色以外に負けるわけがない、と彼女は思っていた。

 それはリビングメイルを見たことのない民衆の噂。まずリビングメイル同士の戦闘なんてそうあるものでもない。だが“学のない”彼女にとっては噂こそが真実だった。だったのである。

「ぺしゃんこにしてやるよ!」

 水色の後ろから迫った鈍色の拳は、凄まじい破砕音と共に土煙を巻き上げる。

 生身の人間なら木っ端微塵。どんな防具で身を固めても、この一撃に耐えられるはずがない。

 だが、土煙の中に、赤い光跡が見えた。

 そして目の前に金属の塊が転がり出る。よく見慣れた、何人もの罪なき人を薙ぎ払ってきた鉄の拳が。

 女は息を呑んだ。喉からヒュッと嫌な音が出る。

 知ってか知らずか、水色は土煙の中から腹立たしいほど悠々と、そしてはっきりとした敵意を持って現れた。その背後には、先ほどまで動いていた鈍色が膝をついて静止している。

 それに気づいた女が金切り声を上げる

「なっ、何をやってる!早くこいつを、こいつを潰せ!」

『あれは……はもう動かない』

 闇の底から響くような声が聞こえた。

「リビングメイルが声を……!?」

 女は喋るリビングメイルの噂など、聞いたことがなかった。

 ■

「ありゃ甲鉄こうてつだな。旧式の砲戦用マキナだ」

 斜面の上から、軽薄そうな男声がカラカラとそう言った。

 双眼鏡を覗きながら、だがありゃあダメだな。と追加する。

「元々甲鉄は有人機だからな。自動制御プログラムなんて名前がついてても、大したことはできねんだよ」

 あー、勿体ない勿体ない等とブツブツ物を言う。

 そして喋るたびにカチカチカラカラと骨のような音が混ざった。

 いや、混ざっているというよりは、聞こえることが正常なのだろう。と思う。

 水色の鎧を纏った男、僕は少なくともそう思った。

「骨がこすれて痛くないのかいダマル」

「あー、違和感はあるぞ。っていうか恭一きょういち、俺が生きてることそのものが違和感だろうが」

 そう返してきたのはまごうことなき骸骨だ。名前をダマルと言う。

 “今”に僕が目覚めた時、最初に声をかけてくれたのがこのダマルだった。

 もしかしてこういう生物種なのだろうかとさえ思ったが、本人曰くは元人間らしい。

「まぁそうだね。店の中にはどっちが行く?」

「そりゃお前だろ」

「なんで?」

「俺が店に入ってみろ。大騒ぎになるぞ。モンスターが出たって」

「マキナだって十分威圧的だけど」

「お前の中身は人間、俺の中身は骨だ。人間はびっくり箱の中身がトラップかプレゼントかで気分も変わるだろ?」

 確かにそうだ。

 普通の人々からしてみればホラー極まる展開である。これがせめて被り物か何かであればよかったが、彼は上から下まで服を脱げば只の骨に過ぎない。

「モンスターじゃなくて骨だろう」

「いや骨だけどよ。喋る骨なんて他に見たことあんのかお前」

「ないよ」

 僕はそう言って、水色の鎧の頭に光を宿す。

「弾は勿体ないから使うなよ」

「狙撃でもいいような気がするけど?」

「あんな旧式のどんくさい奴にそんな贅沢言うなよ。そいつなら武器は要らねぇ、殴り合いで勝てる」

「最初からそういうのは、好きじゃないんだけどね」

「好き嫌いで戦闘なんてできるかよ」

「それもそうだ」

 手を開く、閉じる、開く、閉じる。よし。

 近くに置かれた荷物はそのままに、僕は水色の“機体”を翻した。

 緩やかな斜面を踏みしめながら少しずつ加速する。現在の走行速度を示すゲージが視界の隅で伸びる。

 僕は記憶がある部分という話になるが、元は軍属だった。

 今彼の身を包むマキナを動かす力。それは昔、さほど特別なものでもなく、免許さえあれば誰でも乗れた。

 だが、それはこの世界において古の話。という出来事により、過去と現在は大きく分かれてしまった。知識や技術は喪失し、人々の記憶も薄れ、消えていった過去。

 僕はその時代を生きた。だが、今も生きている。その部分の何故は、僕自身にもわかっていないが。

 ここに自分が居る以上、ここで生きて死ぬというのが、生物というものだと考えた。

 だからダマルの手を借りて、こうして今を生きている。放浪者として。

 視界の中央で次第に大きくなる甲鉄。

 ダマルの言う通り、確かに見覚えのある機体だ。鈍色の機体は見たことがないが、塗装がすべて剥げ落ちているのだろう。

 それだけの長い間、自動操縦で命令を待ち続け、そして誰かがその声紋認証をクリアした。

 可哀想な機体だ。

 甲鉄が振り向く。どうやら逆探は生きているらしく、こちらの接近に気づいた。

 だが、遅い。

 速度と体重を乗せた蹴りの一撃が甲鉄の腹部装甲に突き刺さる。

 旧式機特有の分厚い合金装甲はこの一撃を防ぐが、衝撃は受けきれず派手に吹き飛んだ。

 勢いのまま途中まで甲鉄と共に進んだが、数メートル前で離れる。さっきの衝撃音は響いたはずだ。そろそろお出ましだろうか。

「何者だい!?姿を見せな!」

 甲高い声が耳に響く。

 これがただの客なら申し訳ないが、少なくとも盗聴していた限りでは正邪は明らかだった。

 ゆっくりと、ただゆっくりと歩み寄る。生体センサーが敵を捉え、武装などの情報を提供してくるが正直どうでもいい。

「なぁっ!?なんでこんなとこに野良が……でもねぇ!」

 女から発されたのは驚愕と、自信の言葉。

 そして、その言葉に反応するのは背後の甲鉄だった。

 声紋認証が成功しているのは間違いない。そして、この女を上位指揮系統だと認め、その安全確保のために甲鉄は動こうとしている。

 僕は、やっぱり可哀想なことだ。と考える。

 だが機械に、ひいては道具たる物に、主を選ぶ権利はない。選択するということは許されない。

 それは昔も、今も同じらしい。

 地響きと共に砂塵が舞い上がる。

 跳躍した甲鉄が迫る。先ほどのこちらの攻撃から、装甲などの情報を計算したらしい。重力と自重を乗せた拳で貫こうと。

 自動だから、仕方ない。

 軽く体を捻り、甲鉄の拳を躱す。地面に刺さる拳の衝撃は大きく、周囲にヒビが走った。

 躱しながら考える。運動性の低さは砲戦用の重装機にとっては大した問題ではない。本来は巨大な砲で長距離の敵を攻撃するための存在。

 だから運用外のことなんて、しないほうがいいに決まっている。

 地面を蹴って宙へ踊る。と、同時に蹴りを放ち、甲鉄の右腕をもぎ取った。

 派手なスパークを散らしながら甲鉄の右腕が地面に落ちる。その重量を失ってよろけた甲鉄の首に、手刀を突っ込む。

 マキナ最大の弱点である首。人型を模したが故の、装甲の薄い部品はマキナ同士の格闘戦において有効だ。

 突っ込んだ手刀を捻って、フレームの外側を走る指示回路を切断した。あたかもそれは、人間の首を折るのと同じようにも見える。

 ごきりという鈍い音と共に、甲鉄は膝をついた。モニター上に示されていた稼働反応が消え、甲鉄が修理なしには動かない状態となったことを伝えていた。

 修理など、誰かができるものだろうか。

 その光景が見えたのか、女が乾いた声で叫ぶ。

「なっ、何をやってる!こいつを潰せ!」

 この女はマキナを知らないのか?知らずに使っていたのか?軍事戦力たるマキナを。

 そう思うと少し哀れに思えた。女も、もちろん甲鉄もだ。

 だから敢えてこんな言い方をしたのかもしれない。

『あれは……甲鉄はもう動かない』

「リビングメイルが声を……!?」

 有人機を知らないのか?

 僕にとっては、未だにこの世界の常識という奴は欠片程も知らない。

 むしろ現代の他人と接触した事自体がはじめてだ。過去の常識と、骨が接触した“死体”からの情報程度では普通などわかりようもない。

 だが、それをこの連中に聞く暇はなかった。理由は至極簡単だ。

『僕は今腹が減っている。だから、これ以上の問答はいらない。退け』

「ひぃっ!?」

 拳を構えると不精髭の男が斬馬刀を取り落とす。

 甲鉄だけが少人数で戦えた理由だったとすれば、その優位はもうない。女はそれに舌打ちし、細剣に手をかけながらゆっくりと後ずさる。

「覚えておいで……あたしたちをコケにし―――ぎッ?」

 捨て台詞を吐きながら帰る。そんな悪党らしい最後を迎える直前、いま彼女の胸から生える鉄の刃がそれを許さなかった。

 骨をよけながらの心臓を一突き。女の口から血の泡が溢れ痙攣し、地面に倒れた。

「あ、ま、待て!待ってくれ!許し―――ぎゃあ!」

 隣では不精髭の背中から花が咲くようにパッと血が弾けた。

 地面に伏した不精髭を後ろから止めの一撃が首に突き刺さる。さもそうするのが当然というような、一瞬のことだ。

 布を顔に巻いた用心棒たち。この盗賊どもより余程荒事に慣れているのか、一切の躊躇いなくその刃を振るう。

「……なるほど、リビングメイルを殺せるのはリビングメイルだけか」

 その刃は最後、こちらへと向けられた。

 殺意や敵意ではなく、警戒。動物的な恐怖心から、彼らはこちらに武器を向けている。

 僕は食い物を買いに来ただけなんだけれど。

『敵意はない。買い物がしたいだけだ』

 こういうときは行動からだろう。と思い、とにかく両手を挙げてみる。

 よくよく考えれば、この行動そのものの意味が伝わるのかも不明であり、かつ拳そのものが武器となるような奴に万歳されても何の意味があるのかという話だが。

 だが、頭に巻かれた布から覗く目を見開いて用心棒たちは呆気に取られていた。

「か、買い物……お前、本当にリビングメイルなんだろうな」

「いやリビングメイルが食事って……食うのか?」

「まず何普通に喋ってんだよ……」

 最後の方はボソボソと小さくなっていく言葉。よく見れば、その中に風貌が異なる者が、端的に言えば明らかに商人らしき男が混ざっている。

 どうやらあれがここの店主らしい。できることなら、もうちょっと穏便に物事を進めたかったなぁ、などと思うがこの格好ではそうもいかない。

 中身はただの人間だ!と叫んで出て行ってもいいが、ここで内側から出るのは生命の危険を感じるのでやらないことにした。ダマルではないがびっくり箱から化物が出てきました、みたいな扱いを受けたらたまらない。

『金は持ってるから、飯をくれ。あるものでいい』

 腰に括りつけた――全く不似合いな――布袋を見せる。

 軽く振ってみせると、その小さな金属音に店主らしき男が一瞬目を見開き、しばらく瞬きを繰り返した後、大仰にため息をついた。

「金払うってんなら客だ。それが人間だろうがキメラリアだろうが……鎧だろうが、な」

『恩に着るよ』

 何故かやや諦めたような、それでいて呆れているような言葉に戸惑った。

 そんなに不思議な事だろうか。鎧姿で買い物をする奴が。

 よくよく考えてみれば“現在”で目覚めてこの方、自分ほど重装な鎧を装着した者なんて見たこともなかったが。

 その阿呆どもを捨ててこい、と用心棒に命じると、店主はズカズカと店へと戻り、カウンターの上に干し肉とガサガサのパンを並べる。

「人間でなくても、これでいいのか?」

『勘違いしないでほしいが、僕は人間だ』

「どこにそんなごついフルプレートアーマー着込んでまともに動ける人間が居るってんだよ。仮にアンタが人間でも、十分化物だ」

『人間でも化物、と言われると困るな。証明できないから、中身は本当に人間だとしか』

 僕は頭を掻くくらいしかできない。いや、頭を掻いても帰ってくるのは装甲の硬さだけでしかないが。

「……まぁ、助けてもらっといてなんだからな。アンタが人間だってんなら、人間なんだろうよ。俺だけは信じておいてやるよ」

『ありがたい。必要な分をとってくれ』

 袋から青銅できたを机にぶちまけると、店主はフンと息を吐きながらそれを数えていき、そのほとんどをポケットにしまい込む。返ってきたのは3枚だけだったので、青銅の貨幣らしきものは余程価値がなかったか、この店が法外な価格なのかだろう。

今のところそれを判断する基準はまったく持ち合わせていないので、黙って返された3枚の釣銭を布袋に押し込んだ。随分軽くなった袋はしっかりしぼんでいる。

 代わりに受け取った干し肉と黒パンは、容器や鞄もないため直接手に持った。より一層、訳の分からない見た目になる僕の姿を見て、店主はもう一度ため息をつきながらボロボロの麻袋を投げ渡してくれた。

 すまない助かる、と伝えると、店主は眉間に刻まれた皺をもみほぐしながらあのなぁ、と続けた。

「なんでそんな化物じみた人間が、放浪者なんぞやってんだ。人間だって証明ができんなら、どこの町でも自警団とかで雇ってくれるだろうに……証明も脱いでみせりゃ一発だろうが、呪われてそうだから脱げるのか知らんが」

『臆病で心配性だから、顔をそうそう出せないだけだよ』

「何の心配だよ何の!お前が心配するべきものってなんだってんだ……リビングメイル相手に普通の人間じゃかすり傷もつけられんのだぞ」

 だからあんな阿呆共に後れをとるんだ、と店主の言葉は最後に愚痴に変わっていった。

 やや哀愁すら感じる背中に、僕は口を噤むしかなく、世話になったと告げて店を出ようとして呼び止められた。

「……感謝ついでに世間知らずなアンタに一つ無意味な忠告だ。最近このあたりにコレクタの連中がうろついてる。見つかると厄介だぞ」

蒐集家コレクタ?』

「そんなことも知らんのか?アンタ、どっから出てきたんだ……コレクタってのは廃品業者スカベンジャーの連中で、ほとんど野盗みてえなもんだ。なんでかは知らんが、リビングメイルやら鉄蟹やらを好んで狙ってる」

 リビングメイルに鉄蟹。曖昧な言葉の羅列に、僕は唸りを返すくらしかできなかった。

 世間知らず等と揶揄されてもこの程度である。否、過去であるならばいざ知らず、この現在という時間において自分が世間知らず程度では済まないことは先刻ご承知なのだが。

 ■

 自称人間のリビングメイルは食料を買うとすぐに店を立ち去った。

 正直な話、店主は今日起こった事は全て夢だったと思いたいほどに疲弊していたが、店内の散らかった様子だけが嵐が過ぎ去ったことを伝えていて忘れさせてくれない。

 用心棒たちに頭をかち割られた旅人の埋葬と店内の片づけを命じ、店主は一服することにして外に出る。

 今までいろんな客が来たが、あんなのは流石に経験がない。どころか、リビングメイルを1日で2体も見ることなんて普通に生きていてあるはずもない。

 それを目にして生きている自分は幸か不幸か。ひっくり返って泡を吹いていた商人が羨ましいとさえ感じた。

 店じまいにはまだ少し早いが、今日はもう閉めて寝てしまおう。そうだ、今日ぐらい酒を思いっきり呑んで酔っ払ってしまえばいいのだとため息をつく。

 だが、それを来客が拒んだ。

「おい、まだやってるか?」

 じろりとそれを見やった店主は、その装いからその客らが何を求めてこの場所へやってきたかの予想がついた。

 いや、知っているならばそうとしか思えない連中なのだ。

「コレクタ……」

どうやらまだ、この店主にとって狂気とも言える1日は終わらないらしい。

 

 試し読みはここまでです! 続きは作品ページをご覧ください!

感想

作り込まれた世界観! 想像しやすいメカアクション!
親しみがもてるキャラクター達などなど、凄く親しみやすいファンタジーSF長編です。

ファンタジーやSF、ロボット物が好きな方にも楽しめる内容となっておりますよ!

実況朗読

※ネタバレを含みます!

悠久の機甲歩兵

コメント

  1. turkce より:

    An interesting discussion is definitely worth comment. Katherine Linc Walworth

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