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「サマースマイル・アゲイン」作者:タカトウリョウ様

小説
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こちらの記事は私が読んで「面白い」と思ったオススメのWeb小説をご紹介しようというものです!

第四回は、タカトウリョウ様の「サマースマイル・アゲイン」です!

 

作品閲覧はこちらからどうぞ!

サマースマイル・アゲイン
【第1回MBSラジオドラマ短編小説賞最多レビュー獲得作品】 // 無料オンライン小説です

あらすじ(作品より一部引用)

この恋を、この夏を、たとえ大人になっても、ボクはきっと忘れない――。
平成最後の夏に送る、痛くて切ない、ちょっぴり歪んだ恋物語。

(ノベルゲーム風)試し読み

「どうして優しい人ほど早死にしちゃうんだろうね」

 と真夏まなつちゃんが悲しそうな顔をして呟いた時、ボクは少しだけ考えたふりをして、

「どうしてなんだろうね」

 と呑気な口調で答えた。

 ローカルテレビ局の美人気象予報士が、昨年より一週間以上も早い梅雨明けを宣言した日の午後。真っ白な陽射しが照らす、チョークの匂いに満ちた二年D組にはもう、ボクと真夏ちゃん以外に生徒の姿はない。日直を任されているボクは今、親友の真夏ちゃんを巻き込んで、放課後の業務の真っ最中なのだ。

 窓際最前列の席を二つ仲良くくっつけて、ボクと真夏ちゃんは対面した形で椅子に座っている。学級日誌に今日のクラスの様子を書き連ねているボクに、スマートフォンのニュースサイトの記事に熱視線を送っている真夏ちゃん。

 道路に飛び出した小学生を助けようとして、バキュームカーにはねられて即死した地元市内の高校球児を、真夏ちゃんは心底不憫に思っているらしい。きりりと整えられた眉毛をハの字にし、今にも泣き出しそうな顔をしている。片やボクはその哀れ高校球児の死に様を、ベタだなあ、滑稽だなあ、くらいに思いながら、目の前の美少女にじっと見惚れていた。

 冬木真夏ふゆきまなつ、十六歳。十二月十二日生まれの射手座O型、バストサイズはエクセレントなEカップ。真冬生まれなのに真夏と名づけられた真夏ちゃん。真夏の太陽のような後光を放つ、いつも元気いっぱいの真夏ちゃん。そんな彼女にボクは今、熾火のような恋心を抱いている。

 きっかけは、本当に些細な出来事だった。

 高校入学早々、友達作りに乗り遅れたボクは、休み時間になるといつも一人、自席で文庫本を広げていた。元々内向的かつ地味なボクの入学前の目標は、友達を一人でも多く作ること。その年のお正月には「脱陰キャラ宣言」などと書き初めし、自室のドアに貼りつけたくらいだ。気合だけは入っていた。でも、生まれ持っての性格は、やはりそう簡単に変えることは出来なかった。

 結局、派手グループ、普通グループ、地味グループのどれにも属することが出来ず、完全に孤立したボクは、校内透明人間に徹する覚悟を決めた。言うまでもなく、部屋に飾った書き初めは、跡形もなく破り捨ててやった。高校入学から一ヶ月と経たずして、ボクの目標はあまりにあっさりと崩れ去ってしまったのだった。

 七月上旬。目前に差し迫った夏休みに胸を躍らせているクラスメイトたちを横目に、ボクは例のように文庫本を広げ、ただただ無言を貫き通していた。座席は教室のちょうど真ん中辺りだというのに、ボクの周りには誰一人として寄ってはこない。

 まあしかし、当たり前だ。ボクは校内透明人間なのだ。この現状も既に受け入れている。でも――もし仮にボクが垢抜けていて、もっと言うと美少女だったとしたならば、きっとこんな日々を送らずに済んだのだろうな、なんて考えてしまうこともある。だって美少女の周りには、自然と人が寄ってくるのだから。それはまるで、磁石に引き寄せられる砂鉄みたいに。

 お母さんに工作用はさみで切ってもらった重たいこけしカットに、限りなく一重に近い奥二重の瞳。低い鼻に、白というよりも青白い、不健康チックな肌。せめて嫌悪感を抱かれないようにと清潔感だけは保っているつもりだけれど、そもそもボクを認識しているクラスメイトなんて存在しないので、全く無意味な配慮をしているような気もする。

 この通り、間違ってもボクは、美少女と呼ばれるような人間ではないのだ。

「ねえ、春原すのはらさん」

「…………」

春原小秋すのはらこあきさんだよね?」

 その特徴的なウィスパーボイスが自分自身に向けられているということに気づくまで、数秒かかった。

 連なる活字から一旦目を離し、恐る恐る小首を左方に捻る。するとそこにはクラス一、いや学年一の美少女と早くも噂の女子生徒が立っていた。入学初日の自己紹介で美術部に入ると宣言した、クォーターの女の子。そう、その人物こそが真夏ちゃんだったのだ。

 腰の辺りまで伸びた栗色のさらさらロングヘアに、二重瞼の大きな瞳。小さくて可愛らしい鼻に、透けるような白い肌に、すらりと伸びた手足。そんな精巧なフィギュアみたいな身体のパーツ一つ一つを、ボクは密かに羨ましいと思っていた。

 でも、真夏ちゃんのような溌剌とした人気者が、ボクみたいなヒエラルキー最下層の陰キャラ生徒に一体何の用があるというのだろう。その真意が全くもってわからない。罰ゲームか何かだろうか。

 目を白黒させながら、動揺を隠せずにいるボクを気に留める様子もなく、真夏ちゃんは二の句を継いだ。

「それ、面白いの?」

 それ、とはつまり、手元の文庫本のことなのだろう。ブックカバーも何もしていない、ページの角が折り曲がった、色褪せた文庫本。ミイラみたいに痩せ細った初老の店主が、いつも暇そうに欠伸を漏らしている古書店で何となく購入した、定価百円ぽっきりの文庫本。作品のジャンルは、いわゆる児童文学。

 極めて凡庸なストーリーではあるけれど、文体が割と好みだったので、

「うん、面白いよ」

 とボクは答えた。その声は、おそらく小刻みに震えていたと思う。

「へえ、そうなんだ」

「うん」

 こんな時、普通の人間ならば、ここから自然と話題を膨らませていくのだろう。思いつつ、けれどもボクには、それが出来なかった。

 つまらない奴、とでも思われただろうか。せっかく向こうから話しかけてくれたというのに、手を差し伸べてくれたというのに、ボクはその厚意を全くの無駄にしてしまった。

 漁港に押し寄せる大波のような自己嫌悪が、このちっぽけな身体をすっぽりと呑み込むまで、そう時間はかからなかった。

 周囲の賑々しいクラスメイトたちとは一転、二人の間に四秒、五秒と重く凝った沈黙が垂れ込め、いよいよこの場から逃げ出そうとした――その時のことだ。

「春原さんって、いっつも読書してるから、何となく気になる存在だったの。わたしも本が好きだから……実はずっと話しかけるタイミングを窺ってたんだ」

「え」

「おすすめの作品があったら、今度紹介してね」

 くすみ一つない真っ白な前歯を輝かせ、てらいのない笑みを浮かべた美少女。

「……了解」

 この時、この瞬間だった。ボクが空っぽな胸の奥底に「ときめき」の四文字を自覚したのは。それは十五年の人生史上、最も強烈で、何とも自制し難い感情だった。

 こうしてボクは、あまりに唐突に、単純に、純粋に、あっという間に初恋の渦に呑み込まれてしまったのだった――。

「よし、完了」

 黒板真上の壁かけ時計の針が午後四時ちょうどを指し示した頃、ボクは学級日誌の項目を全て書き終えた。もっとも、こんなものは本来、ものの五分もあれば書き終えることが出来る。でも敢えてそれをしないのは、一分一秒でも長く真夏ちゃんと一緒の空気を吸っていたいからだった。もちろん。

「真夏ちゃん、帰ろっか」

「うん、帰ろ帰ろー」

 隙間なくくっつけていた机を定位置に戻し、教室を出て、職員室入口すぐの小汚ないデスクに学級日誌を届けた後、ボクたちは揃って校舎を後にした。

 まだまだくっきりとした青さを保ち続けている夏空の下、連なる民家を両脇に、最寄り駅まで続く道を二人並んで歩く。ボクたちは電車通学であり、また住んでいる町も一駅しか変わらない為、放課後になるとこうして行動を共にすることも珍しくなかった。

「小秋ちゃん、これからちょっと時間ある?」

 真夏ちゃんがそんな言葉を投げかけてきたのは、A駅に入ってすぐのことだった。

 人々が交錯する東口の階段を一歩一歩と下りながら、ボクはあまり深く考えずに答える。

「うん、大丈夫だよ」

 このまま自宅に直帰したところで、お母さんに夕飯の買い出しに駆り出されるのが目に見えている。それに、明日は土曜日。何なら朝までつき合ったっていい。

「ちょっと紹介したい人がいるんだよね」

「え、誰?」

「それは……会ってからのお楽しみ」

 えへへ、と上機嫌に、そしてどこかしおらしく笑う真夏ちゃん。

 何をもったいぶっているのだろうか、このコは。思いつつも、ボクがそれ以上の詮索をすることはなかった。紹介される相手が男だろうが女だろうが、宇宙人だろうが異世界人だろうが、もはや誰だってよかったのだ。このまま真夏ちゃんと一緒にいられるのならば、誰だってよかった。本気でそう思っていた。

 ボクたちは駅構内の自動改札の傍に設えられた、待ち合わせスポットとしてよく利用されるイルカを模したオブジェの前で、その人物を待ち続けた。しかし五分、十分経っても、その人物が現れることはなかった。こんな可愛い女子高生を待たせるだなんて、相手は一体どんな奴なのだろう。

 ちらりと窺う真夏ちゃんは、先ほどから熱心にスマートフォンの画面を見つめている。

「まなったーん」

 その人物がボクたちの前に現れたのは、約束の時間からニ十分が過ぎた頃だった。

 へらへらと笑いながら、悪びれた様子もなく歩み寄って来た二十代半ばくらいのサーフ系男を、真夏ちゃんはいつになく糖度の高い声で「ジョーくん」と呼んで、心底嬉しそうに出迎えた。その両目は心なしか潤みを帯びていた。飼い主を待ちわびた小型犬のような、出会ってから今まで一度だって見たことのない表情が、そこにあった。

 ジョーという、そのいかにも軽薄そうな男にそこはかとない嫌悪感を抱いてから間もなく、真夏ちゃんのグロスで濡れた唇から衝撃的な一言が発せられた。

「紹介するね。わたしの彼氏のジョーくん」

「ども、城ヶ崎じょうがさきっす。よろしく」

 男が肩まで伸びた艶のない金髪を掻き上げながら、この世の終わりみたいなウインクを一つ。

 瞬間、三百デシベル超えの凄絶な轟音と共に、世界はボクの足元から真っ二つに裂けたのだった。

 

 試し読みはここまでです! 続きは作品ページをご覧ください!

感想

純文学風の「青春物語」といいましょうか。その場の情景が思い浮かびやすく、登場人物達の心の動きが伝わってきます。

物語が進むに連れて感情がじわじわと揺さぶられ、最後は健やかな気分で終わらせてくれます。

合計二万字ほどでさらっと読み終えることが出来る本作。
是非ラストの結末を確認してみてください!

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